防衛省、強まる情報統制 自衛隊部内誌、異例の黒塗り開示 

 防衛省が今年三月、民間研究団体の情報公開請求に対し、行政文書として所有する刊行物を一部不開示にする異例の措置をしていたことが分かった。さらに自衛隊の米艦防護の初実施について説明を求めた国会議員に「公表する仕組みがない」と拒むなど情報統制を強めている。森友、加計両学校法人の問題でも野党などに指摘されている政府の「情報隠し」。記録の保有、そして国民への開示という民主主義国家の最低限の原則が揺れている。

 「一部不開示になったのは初めて。驚いた。なぜこんなことが起こるのか」

 一九七五年に発足した民間の研究団体「軍事問題研究会」(東京)の桜井宏之代表はそう話す。

 この会は二〇一〇年ごろから、「陸戦研究」(陸自)と「波濤(はとう)」(海自)、「鵬友(ほうゆう)」(空自)という自衛隊の部内誌の情報公開請求を定期的にしている。いずれも自衛隊幹部やOBによる論文を掲載し、防衛省の行政文書になっている。

 今回、防衛省が一部不開示としたのは「鵬友」の一六年十一月号に載った元空将補の本村久郎氏の論文「中国軍事改革と航空戦力整備の動向」。中国のH6爆撃機部隊が巡航ミサイルを中国本土から発射することが可能で「日本全土の複数目標を同時に攻撃できる」とした直後の一文が、黒塗りにされていた。

 不開示理由は「自衛隊の防衛体制、防衛力の現状等が推察され、自衛隊の任務の効果的な遂行に支障を及ぼし、ひいては我が国の安全を害するおそれがある」というもの。本紙の取材に対し、防衛省報道室は「行政文書として保管しており、法律にのっとり一部不開示とした」と説明する。

 だが、「軍事問題研究会」によると、黒塗り部分には「現在の日本の防空体制ではこの攻撃を防ぐことは極めて困難である」と記されていただけだった。桜井氏は「この一文は機密でも何でもない、ただの論文執筆者の感想。そもそも部内誌は自衛隊OBにも配られる物。書かれた内容を隠しきれないし、隠す意味もない」と語る。

 さらに防衛省には、「鵬友」の公開を拒めないはずの経緯がある。〇八年に田母神俊雄航空幕僚長(当時)が旧日本軍の侵略性を否定する懸賞論文を発表して国会で問題になった際、「鵬友」に田母神氏が執筆した同様の趣旨の論文が掲載されていたことが発覚。当時の麻生政権が「(「鵬友」は)私的な団体が発行している刊行物であり、防衛省として、これを管理または統括するものではない」と釈明しているからだ。

 「鵬友」は国立国会図書館に納められてきたが、この一六年十一月号以降の分は納本されていない。

 安倍政権下で、特定秘密保護法、新安全保障法制などが施行された。こうした流れの中で、桜井氏は「(安保関連文書などを)隠さなければいけないという空気が政府に存在する」と話す。防衛省が大学などに呼びかける軍学共同研究の成果についても、桜井氏は「『公表されると、自衛隊の任務の効果的な遂行に支障があるので出すな』ということになりかねない。ゆくゆくは防衛情報が完全に隠されるかも」と懸念する。

 情報統制強化と受け取れる動きは他にも多い。

 一例が、五月に房総半島沖から太平洋を西に航行する米海軍補給艦に海自の護衛艦二隻が随行した、「米艦防護」の初実施だ。

 ちなみに政府は現在に至るまで、実施の事実を認めていない。参院外交防衛委員会の委員を務める小西洋之議員(民進)は実施の初日、防衛省に事実確認の説明を求めたが「公表しない仕組みになっている」と拒否されたという。

 小西議員は「安倍首相は後日、国会で『米軍の活動に影響するおそれがある』と非公表理由を述べた。しかし、実施の事実ぐらいは公表できるはずだ。今の仕組みでは、歴史的な検証すらできない」と憤る。

 元防衛官僚の柳沢協二氏は防衛省の姿勢について「米国の軍事行動にかかわることは全て非公表としているが、これでは米国に都合の悪い事実はすべて隠蔽(いんぺい)されてしまう」と指摘する。

 一方、陸自南スーダン国連平和維持活動(PKO)の日報問題では、陸自が一度は廃棄を理由に情報不開示としながら、今年二月に防衛省統合幕僚監部で保管していたことが判明した。

 情報公開請求などへの不服を審査する国の情報公開・個人情報保護審査会の答申データベースによると、周辺有事の際の自衛隊の対応をまとめた「統合防衛戦略」(一四年)については立案時に取得、作成した文書は一年未満で全て廃棄されている。公文書管理法に基づくガイドラインなどに当てはまらない文書について、省庁は保存期間を独自に一年未満と設定して廃棄できるためだが、「戦略」の立案過程を物語る文書は永久に失われた。

 基地周辺住民への情報提供も狭められている。防衛省はかつて毎年、全国の在日米軍施設・区域外の米軍関係者の居住者数を公表してきたが、米軍からの要請を理由に一四年から取りやめ、現在は都道府県別の人数のみ発表している。

 神奈川県横須賀市基地問題に取り組む呉東正彦弁護士は「近隣の基地内外に米軍関係者がどの程度居住しているかは地域の安全を守る住民にとっては重要な情報。政府は国民の信頼を得ようという気があるのか」と疑義を呈する。

 前出の柳沢氏は「特定秘密保護法や安保関連法、共謀罪などの成立時、安倍首相は『運用時に国民に丁寧に説明する』と繰り返したが、実際は全く説明責任を果たしてはいない」と話している。

 (白名正和、三沢典丈)